松下資料館 トップページ>館長からのメッセージ

館長からのメッセージ

君は数倍のお返しをしなくてはいけない
2012年4月

 4月は入学・入社のシーズンです。新入生や新入社員は、心新たな気持ちで新生活をスタートしていることでしょう。しかし、残念ながら希望の学校や企業に入ることができず、もう一度気を引き締めて受験勉強や就職活動に取り組むという人もいるかと思います。

 私自身、受験に失敗し重苦しい浪人時代を経験したことや、念願の学校や企業に入社して大変嬉しかったことなども、今となっては懐かしく思い出されます。 

 若い頃のことを振り返ってみますと、何のために学校に入り勉強をするのか、どのような考え方で仕事に取り組むのか、といったことをあまり深く考えてはいなかったように思います。そして、自分の都合・自分中心で物事を見たり考えたりする傾向があったような気もします。若かったですから、そのように考えていても仕方がないと言えるのかもしれません。しかし今思いますと、社会とのつながりといった視点から自分の将来というものをもう少しみることができていたら、私の人生は、もっと広がりがあり、より一層力強く生きていくことができたのではないかと思うことがあります。

 松下幸之助が、ある課長を工場長に任命をした時のエピソードをご紹介しましょう。

「ところできみ、学校はどこを出ているのや」
「はあ、神戸高商を出ています」
「そうか、神戸を出て、うちに入ってくれたんやな。それじゃあきみ、なぜ神戸高商を出ることができたんや」
「そうですねぇ、一つは父親がある程度金をもっていたからだと思います」
「うんほかに何かないか」
「もう一つは私の成績がそこそこだったこと。この二つが大きな要因だと思いますが・・・・」
「そうか、もうないか」
「・・・・」
「きみ、その学校はだれが建てたんや。まさかきみの親父さんが建てたんとちがうやろ。それは確かにきみの成績もよかったし、親父さんがある程度金をもっていたから学校へ行けたわけやけれど、その学校はいったいだれが建てたんや。国が建てたのとちがうか。国が国民の税金で建てたのやろ。その税金はといえば、きみと同じ年で、小学校を出てすぐに働いている人たちも納めている。ということは、きみが学校を出られたのは、きみと同年輩の人たちが働いて学校を建ててくれたから、ということにもなるな・・・・ちがうか」
「そのとおりです」
「そうするときみは、小学校を出て働いている人たちよりも、数倍大きい恩恵を社会から受けていることになるが、きみ、それはわかるな」
「はい」
「とすれば、きみはそういう人たちの数倍のお返しを国なり社会にしなくてはいけない。ぼくはそこのところが非常に大切だと思うんやが、どうやろ」
「確かにおっしゃるとおりです」
「きみ、ほんとにそのことがわかるな」
幸之助は念を押すように問い返すと、こう続けた。
「それがわかったらきみ、今晩すぐ電車で名古屋へ行ってくれ。きみに名古屋の工場長をしてもらおうと思うんや。それがわかってさえいれば、きみは工場長がすぐにできる」 (「エピソードで読む松下幸之助」PHP研究所刊より)

 このエピソードは、陰に陽に社会が私たちの人生を応援してくれているということを教えてくれています。しかし、そのことをありがたいことだと、普段、私たちはあまり考えることはないと思います。 

 松下幸之助は、“感謝する心”を大切にしていましたが、その心をこのようなものの見方考え方として仕事に生かしていたのかもしれません。

 このエピソードからもわかるように、私たちは、知らず知らずの内に社会からの恩恵をたくさん受けているわけですから、勉強や仕事についても、これは“何のためにするのか”、そして“社会に対してどうすればそのご恩に報いられるのか”ということを、時には考えてみてもいいのではないでしょうか。そして、感謝の心を持って物事に取り組むことの大切さを、忘れないようにしたいものです。

展示室「人生の行き方・考え方/働くということ」コーナー展示室「人生の行き方・考え方/働くということ」コーナー(写真左)
松下幸之助の仕事哲学をご紹介しています

皆様のご来館をお待ちしております。

公益財団法人 松下社会科学振興財団
松下資料館 館長 遠藤紀夫

過去の記事はこちら最新の記事はこちら