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館長からのメッセージ

値引きと適正価格
2017年5月

 松下幸之助は小さな町工場の時代に、自ら工場に入って従業員と一緒に物づくりをし、社長として営業活動にも精を出すというフル回転の日々を送っていました。つくった物をお得意先に売りに行くと、値切られることがあったそうです。その頃のことを松下幸之助は次のように本に書いています。

 「負けます」ということばが口に出かかったそのときに、ふっと心に思い浮かんだものがあった。それはなにかというと、私の工場で熱心に働いてくれている若い従業員たちの顔である。ちょうど夏のあつい時期でもあったが、工場の中はさらにあつい。製品の材料となる煉物(ねりもの)を熱した鉄板の上でつくるので、へやの中は炎熱地獄のようなものである。みんな汗をダラダラ流しながら働いている。
 私自身も半日はそういう中で一緒に仕事をしているので、そのあつさ、苦しさは十二分に体で味わっている。相手のいう値段に負けても損までしないが、適正な利益はない。しかし、みんながあつい中で汗を流してやっとつくり上げたものである。その成果であるこの製品がこんなに安く評価されるのはいかにも残念である。また、私の一存で値を負けるのは、工場で働いている者たちに対して申し訳ない。
 そこで私は、改めて相手のご主人にそのことを申し上げたのである。「私どもの工場では、こういうような状態で、みんなが汗水たらして一生懸命にやっているのです。そしてやっとできた製品に、正常な計算で決められたのがこの価格です。それを値切られるのは、身を切られるよりつらいのです。だからこの値段でどうか買ってください」。
 そうすると、熱心に訴える私の顔をじっとみていた相手のご主人は、ニッコリ笑って言った。「いやあ、これは参ったな。単に負けられないということでいろいろ言う人はあるが、君は言うことがちがう。そういう筆法でこられたのではかなわない。よしそれでいい、買おう」。 (「決断の経営」PHP研究所刊より) ※遠藤の一部編集あり

 従業員の汗の結晶である製品をむやみに値引くことは、従業員に対して申し訳ないと松下幸之助は考えたわけです。しかし、昔も今も、企業にとって安く仕入れるということは大事なことです。そこで松下幸之助は、お得意先が受け入れやすい適正価格になるよう材料や作り方等あらゆる面で慎重に検討を重ね、工夫をしていきました。その結果、松下電器の製品は品質もよいし、また値段も大体妥当なものとして通るようになり、信用にもつながっていったのでした。
 従業員の汗に感謝するところから適正価格という考えを強く持つようになっていった松下幸之助の物の考え方・捉え方は素晴らしいものだと思いました。

「決断の経営」「決断の経営」
松下資料館経営図書館にあります

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松下資料館 館長 遠藤紀夫

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