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館長からのメッセージ

血を止めることが何よりも大事
2020年12月

 松下資料館の映像ブースに、松下幸之助の薫陶を受けた松下電器(現・パナソニック)の元社長谷井昭雄氏が語るビデオがあります。今回のメッセージは、この内容の紹介とさせていただきます。
 谷井氏は、当時の松下電器の新規事業であるビデオ事業開発責任者として頑張っておられました。将来の新しい事業として育てるために会社は多額の投資をしていましたが、しばらく赤字が続いていたのです。そのような時に、谷井氏は松下幸之助に呼ばれ、次のようなことを言われました。

 「君のところの事業部、赤字を出しているな。君、会社が赤字を出すというのは、人間の体でいうと血が流れとるんや。人間の体から血が垂れ流れておれば、放っておけば、そのうちに死ぬやろう。だからすぐに、止血の方法をとらんといかんだろう。
 赤字というのは、血を垂れ流しているのと一緒だ。したがって、君、まずその血を止めることが何よりも大事だ」

 病気を治すというよりも、血が流れているのだからすぐに血を止めるのが先決である、と松下幸之助は谷井氏に言ったのです。新規事業だから投資をして多少の赤字を出すのはやむを得ないと考えていた谷井氏に、経営に対する考え方とその厳しさを松下幸之助は教え諭したのでした。
 谷井氏は、それで腹が決まったそうです。非常に厳しい内容ではありましたが、その後思い切った再建計画を建てることができたと述べています。
 悪い時ほど人間は他力本願になりやすい。「もう一年経てば、世の中が変わって、苦労していることがうまくいくのではないか」と考えてしまいがちです。「これではいけない、これではいけないな」と思いながらも、具体的な行動に移せず躊躇逡巡してしまう。これが経営で大きな損害につながることになると、谷井氏は述懐しています。
 今年は、新型コロナウイルスの蔓延によって経営が悪化した企業が続出しました。倒産という言葉が浮かんで苦しまれている経営者もいらっしゃると思います。経営は、企業一社一社がおかれている状況が違いますし、経営者も三人三様の考え方・やり方がありますので、こうすれば必ずうまくいくという公式はありません。こうした中において、「血を止めることが何よりも大事」という松下幸之助の危機的な経営に対する考え方を、一つのヒントとして打開策を考える一助にしていただければ幸いです。
 今年は世界中がパンデミックに見舞われ、多くの人々が苦難と耐え忍ぶ日々を送ってきました。私たちは、今までにない経験をしてきた一年を振り返って、今一度自らの生き方・考え方を反省したり見直してみたりする絶好の機会ととらえたいものです。松下資料館では、経営・人生・政治等について、松下幸之助が発言しているコンテンツに数多く触れることができますので、自らを見つめる場として、さらには自らを励ます場として、これからもご利用いただければ幸いです。
 年の瀬も押しせまってまいりましたが、みなさまにおかれましては健康に留意されて、新しい年を気持ちよく迎えられますことを、心よりお祈りいたします。今年一年のご厚情に感謝申し上げます。

映像「赤字は出血と同じ」映像タイトル「赤字は出血と同じ」
1983(昭和58)年10月21日 PHP研究所(京都)にて収録

みなさまのご来館をお待ちしております。

公益財団法人 松下社会科学振興財団
松下資料館 館長 遠藤紀夫

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