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経営研究活動

松下幸之助生誕120年・松下資料館創設20周年 記念講演会 「感動が生まれるおもてなしの心」

「極める時代のホスピタリティ ~ミッションが働きを決める」


そのときに先生が「君はなかなか面白いこというな。でも、現実は違うよ」と。「お客様がキングで、サービスをする側はサーヴゥントなんだよ」というふうにそこで言われて、「そういうものかなぁ」と彼は思うんですが、彼は自分の中で納得できないんです。なぜならば彼が働いていたレストランのある人だけはお客さんがみんな同等に話をしてるということに気がついたんです。それがそこのレストランのメートルディと呼ばれるウエイターの親分のような方なんですよね。来る人来る人お客様が彼のことを尊敬して、「今日のディナーにあわせてワインを選んでくれよ」とかですね、「今日はどういうような食材で作ってるんだい?」とかですね、同じ同等の目線で話をしている。彼はそれが本来のサービス業の形ではないかというふうに、直感的に分かるわけです。まだ高校出たばかりのホテル学校に入ったばかりですから、17か18かのそれくらいの時に彼は直感でそれを感じるわけです。すごい感性だなと思います。でも、学校ではこれは評価はされないんです。一応レポートはレポートだからということで、受け取ってはくれるんですが現実離れしてるよと言われて終わっちゃったんです。でも彼はそのレポートを大事に取っておくんです。そしてヨーロッパで仕事を始めて、だんだんだんだん頭角を現し、アメリカに移住していきます。ハイアットという会社の中で彼はどんどんどんどん働いていって、最終的にはそこの副社長。料飲関係の副社長まで登り詰めます。でも彼はどこに行ってもそのときのレポートの「We Are Ladies and Gentlemen」と言う言葉を一切使っていないんです。彼の中で自分がそれを使うのに適した哲学に出会っていなかったのです。だから使っていないんです。

時は流れて1982年。彼のところに一本の電話が入るんです。アトランタから。アトランタの不動産で大きな財を成したジョンソンさんという人から電話が入り、「実は今度ボストンのリッツカールトンホテルと言うホテルを買いたいんだ。そしてアメリカでリッツカールトンという名前でホテルを展開していきたいんだ。その仲間を探しているんだけど、一緒にやってくれないか」と連絡が来るわけです。まだその当時リッツカールトンて誰も知りません。すでに彼はハイアットの副社長です。当然そこでずーっといたら、彼はそこそこどころじゃない、有名なホテリエとしてアメリカで尊敬される立場に、もうすでにいたんです。でも彼は一晩考えてそれを受けるんです。それですぐにアトランタに飛んで行って、ジョンソンさんと会って話をして、「いったいどういうホテルをあなたは作りたいんですか?」という話を訊くんです。そしたらジョンソンさんが、「自分はホテルをやりたいんじゃない。新しいアイデンティティを作っていきたい。新しいブランドをつくっていきたいんだ」といわれたわけです。

そこで「じゃあボストンのリッツカールトンはあなたにとってどういう位置付けですか?」「自分の思いを、自分の哲学を具現化するそのための一番大事な素材になっていくホテルだと自分は思っている。だから、我々はホテルをやるんじゃないよ。まったく新しいアイデンティティを世の中に問い続けていくような、そういうブランドをつくっていきたい」

そのときに彼がピーンときたんです。新しくできるホテルのモットーをやっと使えるときがきた。約三十何年、四十年近く温めてきたアイデアを彼は忘れていなかったんです。で、リッツカールトンが開業する時にクレドカードというカードを当然作ります。でも最初の時は一枚だったんです。ブルーの一枚のカードだったんです。そのモットーだけが書かれていました。そしてその裏には一枚の紙にまとめられたミッションステートメントが書かれていました。私これ今でも持っていますけれども、たぶんもう持ってる人ほんとに少ないと思います、アメリカでも。

でもその表に書かれている『We Are Ladies and Gentlemen. Serving Ladies and Gentlemen』というこの言葉は、彼が17歳18歳の時に持った思いだったんです。だから彼の個人の哲学でもあったんだろうと思います。これがひとつの会社の中で花開くとはどういうことか。その軌跡をほんとに有難いことに、私が入ったのは90年ですけれども、まだまだ数軒しかありませんでした。リッツカールトン・サンフランシスコの開業ですから、12軒目です。そのときに入って、ほんとに近いところでシュルツィと一緒に仕事をさせてもらう機会がありました。向こうはアトランタの本社にいて私はサンフランシスコですから、しょっちゅうしょっちゅうというわけにはいきません。でも有難いことにシュルツィって、ほんとに魚でいえばマグロのように回遊していないと死んじゃうような体質だったものですから、しょっちゅう来るんです。しょっちゅう来て何の話をしているかというと、顔さえ見ると哲学の話をしています。「Our philosophies」「Our missionies」もうこればっかり、何十回何百回聞かされたか分かりません。さきほど、どうやって浸透させていくのかなというこの部分なんですが、私はそのときにリッツカールトンという会社の体質は、きっとこれでずっといくんだろうなというふうに思いました。

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