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経営研究活動

松下幸之助生誕120年・松下資料館創設20周年 記念講演会 「感動が生まれるおもてなしの心」

「松下幸之助のサービス哲学」


例えば交通道徳が高まれば、事故が少なくなってくる。そうしますと京都から大津まで行くのに、最初40分かかったのが20分で行けるようになるとかね、そういうことで運送料が安くなってくるとか、生産性に結びつくんですよと。あるいは商道徳で、きっちりと月末にお金を払うということになれば、普通はお金を払ってくれるまで何回も何回も催促してやっともらう。そうすると、それだけの労力がかかるし、生産性が低くなってくる。しかしそれがきちんとできれば、それだけの生産性がアップするんだと、いうことです。ですから道徳というのは、単なる精神的な問題だけではなくて、もちろんそれもあるのだけれども、経済と結びついているんだと論文に書いて発表したことがございます。道徳、経済、これは渋沢栄一なんかも『論語と算盤』で、そういうことを言われていますけれども。確かにそういう面があるんですね。やはり治安が乱れている国では生産性が低いということがありますからね。そのことをしきりに言っておりました。

それから世の中は、サービスとサービスの仕合で成り立っている。個人であれば、歌の上手い人は歌でサービスをする。そして手の器用な人は、芸術の面でサービスをする。それぞれにサービスをしながら世の中というのが成り立っている。だから、自分が10もらえば、自分の方から11サービスをきちんと返さないといけない。それを自分は10をもらいながら何もサービスしなのは、それは虫のいい話で、10もらえばやはり11なり12なり返していく。そうすれば、その分世の中は豊になっていく。それぞれが10もらって6ぐらいしかサービスしなければ、世の中はどんどん貧困になってくる。10もらえば11返す、そういうことでなければならないということなんですね。世の中はそういうことになっているんだといつも言っていたように思います。だいたい語録は、そういうことなんですけれども、最後に感謝ということについて、時間までお話ししたいと思います。

最期亡くなったのは平成元年4月27日でございましたけれども、松下病院においてでした。容態が急変したのが25日ぐらい。横尾さんという方が院長で、その方が主治医でしたけど、その方がずっと付いておられたんですね。気管支炎で、25日から急に悪くなりまして、喉に痰がたまってなかなかとれないということで、呼吸が苦しくなってきた。横尾さんが行って、痰を取る吸引ですね、それをされた。そして「たいへん苦しいでしょうが、ちょっと我慢してください。喉に管を入れさせてもらいます」と言われると、幸之助さんは、その前から声が出なくなっていましたけれども、その時に振り絞るような声で「いや、お願いするのは私です」ということを、そういうことを言われたようなんですね。それが最期の言葉になったということです。横尾院長は「たいへん松下さんらしい最期の言葉だった」ということを言われていました。

やはり感謝という、これは本人も自覚をしておったんですけれど、いろんな人にお世話になってここまできたと。自分は何もなかった、お金もない、健康にも恵まれない、学問もない、そういう中で、いろんな人に助けられながらここまでやってきた。あるいは人だけではなくて、社会とか大自然とか、いろんな物を含めまして、すべてに対し感謝の心というものを持っておったと思うのですね。そういう中で横尾院長に対して「お願いするのは私です」という最期の感謝の言葉、それが凝縮された形で出てきたのかなあというように思います。松下さんらしい最期だったなあと思います。

謙虚さというものを、どうして維持しているのかということを聞かれたことがございます。これは88歳の時です。ある外国の経営者が「今の話を聞いていると、たいへん謙虚に話される。しかしその謙虚さというものをどのようにして維持されているのですか」というように聞かれています。その時にどう答えたかというと「いや、別に謙虚にしたいとか、そういうように意識しているのではないです。しかし自分は衆知によらなければいけない。衆知を集めてやらないかんと思ってる。だからどの人も自分より偉い人だ。自分に教えてくれる。これは人だけではなくて、ここの部屋、空気、資材、全てわが師といいますか、そういうように思ってるんや。そういう所からひょっとして謙虚だというように思われる面もあるのかもわかりません」というような答え方をしていますね。ですから実際に4ページ目の一番上に書いときましたけれども、これは昭和37年、67歳の時に、PHPの研究会で喋ってるんですけれども、ずっと昔を振り返って「今から50年ほど昔は、日給83銭で働いていた。小学校も卒業してないわな、身体は半病人で弱いやろ。どこ一つ取り柄がない。それが日本一の金持ち、商売の神さんやいうて紹介している。これは運命としか考えられない」。何か大きな力を感じていたんでしょうね。そこにたいへん有難いなという思いを、感謝の心を持っておったのではないかなと思います。

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