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経営研究活動

「松下幸之助と素直な心」

「松下幸之助と素直な心」

株式会社PHP研究所
客員 岩井 虔氏

これからはちょっとPHPゼミナールの話をさせていただきたい。PHPは今70年を過ぎた時なんですけどね、30周年を迎えたときに新しい仕事をしようということで、考えろというふうなことで、PHPで友の会というのもその時から、もう一回復活して頑張ってやるようにしたんですけど、もう一つは教育事業です。一人の若い、私より10歳若い男が「そういえばヒアリングをすれば松下幸之助さんと出会いたいという人が多いですね」と。松下グループでも一般の社会の方でも「幸之助に会わせろ」「講演会でもいい、研究会でもいい。何か出会いの場所を作って欲しい。PHPならできるん違うか」こういう話をたくさん頂くんだけれども、「でも忙しいですよね」と。じゃあね、その幸之助さんが今まで話をした記録がPHPの中にありますよね。今、研究本部にあるんですけど「テープだけで三千本ありますね」「あるな」「この中に皆さんがお聞きになりたいものがいっぱいあるんじゃないでしょうか。経営者は経営者向けに、若い人は若い向けに」。幸之助さんという人は原稿を作りません。講演会に行くのに原稿無しでやる人です。だから常に本音ですね。その場で皆さんの目を感じながら話す。だから記者会見でも何を言うか分からんから、ほんとにお付の人は困ったんですけれども、そういう人です。だからその場になって話を、だいたい考えながら行くんですけど、でもやっぱり本質はそこで実際に語り始める。その中にいいものがあるので、それを抜き出してというのがひとつの取り柄なんですね。その若い人の発案。「いっぺんやってみたらどうや、やろうや」ということで手がけてやったら、良さそうなんですね。
 「よしっ」と。所長のとこへ行こう、ということで二人所長室に入りまして、「所長、30周年で何か新しいことをということですけれども、こういうことを考えました。ヒアリングをするとあなたとの出会いを望んでらっしゃる方がほとんどです。でも見るところ難しいんで、今まで話された中からエピソードを抜いて、そして皆さんにぶつけると。セミナーのような、そういうものを考えたいと思うのですがいかがでしょうか」。そういう新しいもの持っていくと幸之助さん喜びます。孫を迎えたおじいちゃんのような雰囲気になるんですね。身を乗り出しますしね。大きな耳ですけど耳を傾けて、「まずなぁ、わしにやってくれ」言われました。幸之助さんの考え方を本人に説明せいというのは変な具合ですけどね、まぁやれっていうことですから二人で一生懸命やったんですね。この若いのはスライドも作ってました。私は「人を活かす心得」というテープを使いながら。「ええなぁ。是非やってくれ」。ああ良かった。合格した、と思いました。「君なぁ、松下の幹部からやってくれるか」。これが青天の霹靂ですね。幹部用に作ったものじゃありません。幸之助さんに会いたくて会えない人のために作った、わかりやすい原点的なエピソードを中心にした教材です。申しました。「幹部はこういうことはご存知ですし、所長がしごいてらっしゃるのを知ってます。いらんのじゃないですか」。あえて反対しました。しかし幸之助は「いやぁ、幹部は分かっとらんのや。是非やってくれ」。
 冗談で言う場合もありますからね、冗談で言ってるのを本音でとったらたいへんな事になりますけれども、顔が笑ってないんですね。やばいなぁと。この人本音で言ってると。分かってないとそういえば私叱られたことがあるんですね。「君、これ分かってるか」と言われました。「分かってます」と言ったら、「わかっとらん!」と叱られた。変な具合ですけども、それは「出来てないじゃないか」と言われましたね。ああ、幸之助にとって分かってるということは、ちゃんと了解して自然にそれが行動ににじみ出てくるとこまで、それを含めて分かってると言ってるんだなというふうに思ったことが体験としてありますけどね。
 「幹部わかっとらん!」というのもそういうことでしょう。恐らく試験をして「書け」といったらみんなうまく書くと思います。でも、幸之助が見て「幹部、わかっとらん」というのは、その大事な考え方がにじみ出てないじゃないか。実際のその業績、実際の作業の中に入り込んでないじゃないか。「わしは不満なんや」という気持ちだと思うんですね。わかっとらん、というのはね。やばいな、この人本気で怒ってると。困ったなと思いました。幸之助、私は素直というかわかりやすい人間、分かるんですね。「お前、大変やと思ってるな」と。それは幹部って誰のことか知りませんけれども、松下は何万という、今は26万とかそういう大勢でやってますけど、こっちは100人くらいです。私が入った時は11人。その頃は100人。でも、幹部ったって見当がつかないんですね。やっぱり役員が入ってました。事業部長、研究所長、営業所長、みんな入ってました。松下グループの分社というのがありますけど、全部入ってるんですね。幹部って、全部含めて言ってらした。困ったなという顔をしたら「君な、進行係ならできるやろ」と言われました。「ああ、それはできます」。時間が来て終わりとか始まりとかね。「君、わしのテープ使うんやな」「使わせていただきます」「あと、ほっとけ。来たやつがみんな学びよる。自分で学ぶ。幹部ってそんなもんや。それでええ」「あとほっとけ」言うんですね。変な命令ですけどね。全部ほっとくわけにもいきませんけれども、「進行係ならできるやろ」と、心もとない戸惑ってる部下に、「進行係ならできるやろ」。もう一つ言われたのは「君、ええことばっかり言うたらあかんで」と言うんですね。失敗から学ぶ。弱さから学ぶ。これが人間、これが企業、これが素直、と思ってらっしゃるんでしょうね。だから「君な、ええことばっかり言うたらあかん」言うんです。
 それから始まりました。もう大変でした。もうほんとに3日コースを作りましたんでね、大変でしたんですけれども、幹部の方とみんな全員来られました。ありがとうとお礼も言っていただいて、例えば営業の専務さんが「営業のことならここへ出てくるぐらいのことははるかに知ってる。もっとたくさん知ってる。しかしその陰で、どんなことを幸之助さんなり松下グループの人たちがやってたかという、その立体化されたんや、考え方が。だから営業の私にあんなこと言ったんやな、ということがよく分かった。ありがとう」「これな、部下にも聞かせたい」「3日コースしんどいから2日コース作ってくれんか」「商道コース作ってよ」と、そういう願いもあって広がっていくんですけどね、そのようにしながら松下グループの幹部研修がスタート。それから一般公開しました。今、教育部門としていろんなところでやらしていただいてるのを懐かしく思い出すんですけれど。その時の私の思い出は、この集まってる幹部の人たちが松下で一番尊い体験はなんだと思います。尊い体験はなんだったかと聞きますとね、幸之助さんに叱られた話を言うんですよ。一人一人違う話をするんですよ、それまた。しかも叱られた話を手柄話のように明るく、「それがあったから今日の私がいる」という気持ちで言うんです。びっくりした。へーと。こんな大勢の人を一人一人幸之助さんはうまく個人的に指導なさったんか。すごいなー。しかもその真意がわかって、愛情がわかって、期待感がわかって「わしを育てるために幸之助はしごいてる」ということが分かっている。これまたすごいなーと思いましたですね。幸之助も本音で叱りますからね。でも叱った後フォローします。それはお前が憎いから叱ってるの違う。しかしその今の考え方が、それでお客様に対して申し訳が立つと思うか。お前の将来にとって、お前の部下にとっていったいどういう意味があるか。それでいいと思うか」という。
 よくですね、あの人は赤字嫌いです。赤字の事業部長が来たらこんな話するんですね。「君、どこから来た」と。どっから来た、って今のような車の時代じゃないですからね。歩いて来たり、自転車で来たり、電車乗って来たり。「駅から降りてね、あの駅前の道を通って本社に来て、この社長室に来ました」「その道のどこ通ってきた?」と幸之助さんは重ねる。分からんのですね、聞かれている方は。「幸之助さんは何を聞きたいのかな」こう言いだす。「君、君が通ってきた道、お前自分で造ったか」「ええっ?道?道、造ったことないです」「誰が造ってくれたんや」「さぁ、国が造ってくれたか、地方自治体が造ったか、なんや知りませんけれども、私と違います」「そやろな」と。「その金はどこから出てきた?」「さー、よく知りませんけど結局は税金でやるんじゃないでしょうか」「わしもそう思う。ところで君に預けた事業、今赤やな」と。「わしはな、事業部というのは全部独立した会社と思いたい。独立した会社なら、お前今法人税払わん組に回ってるな。税金を払わんというのはどういう意味があるか。みんなで出し合った道なんや、これは。お前、でかい顔して歩けるか?歩けるはずないやないか。まさか君、真ん中通ってきたん違うやろな」と言うんですよ。「お前、通らざるを得ないから通してもらいます。端っこの端っこや。すみません。今私は通れるご身分じゃないんだと。通らざるを得ないから通していただきますが、今端っこの方通ります。今度通る時には真ん中を通れるようにしますので、勘弁してください。謝ってな、わしのとこに来る。これが赤字事業部長の道の通り方や!わかったか!!」これが幸之助の赤字事業部に対する戒めなんですね。
 自分のビジネスが、ま、いろんなことがあるでしょう。でも結論としてそこにプラスを生み出して、それを社会にも当然の税金、つまり社会人として当たり前の身分になるために、社会活動上手くいくためのおみこし担ぎの役を果たすわけですね。それが出来なければ一人前と違う。ということ言いながら、そういうことを私赤字事業部長になった人から、十数人同じ話聞いて「あ、幸之助さんこの話よく使ったんだな」と思いました。
 でも、それが公というものと私企業とをつなぐものでもありますからね、こうやって公の考え方を仕込んだんだなというふうに思うんですけど、いずれにしろそういうことを一生懸命言いながらしごいていったということがよく分かります。私、時々報告するんですね。その時に私は幸之助さんは出ないんだけども、代わりの人出てほしいなと思いました。事業部長はいろいろ、いろんな責任者はね、やっぱり苦労してらっしゃいます。で、ぶつかってね、壁にぶち当たってどうしたらいいか、ほんとに迷ってらっしゃる方も多いです。だから幸之助さんが出て行ったら、当然幸之助に「こうしたら、どうしましょうか」質問が出てくる。その代わりをする人が欲しいと思いまして、「先輩幹部の方々にお願いして出て頂くというのはいいですか?」「ん。そらええわ」というように言われまして、出て頂いていろいろ話をしていただいたんです。その中から面白い話があったら幸之助さんに報告するようにしておりました。

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