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経営研究活動

「新・観光立国として日本はどう変わるべきか」

「新・観光立国として日本はどう変わるべきか」

株式会社小西美術工藝社
代表取締役社長 デービッド・アトキンソン氏

皆さん、こんにちは。小西美術のアトキンソンです。よろしくお願いいたします。ここで左から二つ目の『新・観光立国論』(東洋経済新報社)なんですけれども、この本からすでに5年近く経っています。当時としては訪日外国人観光客は1000万人弱の時に書いてまして、その年に確か1000万人を超えた前後のときでした。そのときはまだ国の方では小泉政権のときに新しく立てた訪日外国人の目標がそのまま走ってまして、観光庁等々がいろいろやってましたけれども、振り返ってみると当時は、5年前には2020年に2000万人、去年で3100万人を超えています。1.5倍いってます。2030年に3000万人を呼ぶということだったんですが、すでに超えてますという感じだったんですけど、ただ当時としては小泉政権のときに設けた目標があったにも拘らず、実は国策にはなっていなかったということで、霞ヶ関でいろいろ官僚が動いているものだったんですけれども、安倍政権になってから国策にしていこうというふうに大きく変わりました。今年の1月に発刊した『日本人の勝算』(東洋経済新報社)、これは経済全体の問題を取り上げている本なんですけれども、この二つの本は経済全般の話ではあるんですけれども、実は繋がっています。なぜかと言うと観光戦略の場合は、いろんな背景が、いろんなことを言う人がいますけれども、究極においてはなぜ国策になったのかということを考える必要がまずあります。
『新・観光立国論』を書いた時に、実はある自民党の有力な先生から宿題として言われましたのは「あなたは国宝、重要文化財の会社の社長をやっているところで、文化・文化財に対して日本はもっと投資すべきだといくら言っても、どんなに吠えても政府としてはそれだけでは絶対に投資しない。予算を増やすことは不可能です」ということを言われたんです。そのときに全く同じように、「観光戦略も、ただ単に観光戦略は観光戦略として大事です、という程度の話であれば投資することはできません」と。そのときに言われたのはですね、経済合理性に沿った、この国としてなぜ観光しなきゃいけないのかということを考える必要がありまして、そこから元アナリストですので、エコノミストとして観光戦略の位置づけをまず、それを全部しっかりと分析をしてやってください、というところから始まったのが『新・観光立国論』の始まりです。そうすると特に京都ということになりますと、観光公害オーバーツーリズムだと言う人がいますけれども、それはまた後でご説明をいたしますが、一番そこで理解する必要があるのは、ただ単に趣味でやっているわけではなくて、面白いからやっているということだけではなくて、これはしっかりとした国策として位置づけられてて、しっかりとした経済分析に基づいたものから始まっている観光戦略であるということをまずご理解していただきたいところではあります。
なぜ観光かというと、多少経済の話になりますけど、ちょっと分かりづらくて申し訳ないんですが、この観光戦略というのは、最初から最後まで全てにおいて最大のポイントは人口減少問題対策だということをご理解していただきたいと思います。この真ん中にあります15歳から64歳未満の人口の数字がそこに書いてありますけれども、2015年7700万人弱から2060年までに4420万人まで減ってきまして、42.5%減ることになっています。その隣に65歳以上の高齢者のところなんですけれども、3400万人から3500万人まで2%増加することになっています。

人口減少と生産性向上
人口減少と生産性向上 出所:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」
(出生中位・死亡中位推計)より作成


経済の話でありますけれども、国の経済の総額GDPというものは、国の総生産というものは、そもそも何でできているのかということを考える必要がありまして、日本は皆さんご存知のように、世界第3の経済だと。多くの人は世界第3の経済、それは日本人は勤勉に働くからとか、技術力がすごいからとかいうようなことをベースにして経済が大きいというふうに考えがちなんですけれども、実は先進国である以上は当然ながら技術と勤勉性がなければ先進国になるわけはないんですけれども、実際に世界の経済の順番を見てみますと、第1位はアメリカで人口は3億2400万人、第2位が日本で1億2700万人、第3位がドイツで8200万人、その次が私が生まれたイギリスで6600万人、その次はフランスで6500万人。これをずっとこのリストを申し上げていくと、皆さん感じるところにあると思いますけれども、ずっと人口の大きさに沿った形で経済の大きさのランキングが出てきます。要するに人口の番を上回るくらいまで、勤勉であっても技術があっても人口には勝てないということが特徴です。そういうふうに考えると生産年齢人口といいますけれども15歳以上64歳未満の人口がここまで減ってきますと、何も変えなければ当然ながらこの経済というのは残念ながらどんどんどんどん縮小していきます。今は縮小しなくても、すでに始まっていますけれど、手を打たなければどんどん悪影響が出てきまして、縮小してきます。そうすると上の世代はどうするんだと。当然ながら今の経済の一定のお金が上の世代に年金・医療費という形で移行していきますので、元となる経済が小さくなればなるほど、上が減るわけじゃないので、どんどんどんどん苦しくなってしまうだけですので、経済は崩壊していく。このことに関しては、それに対して手を打とうということは、そもそもの観光戦略を実現していく動機と言いますか、政府にとってのメリットはそこにあります。
そういうふうに考えるとですね、私は小西美術の、小西工藝社の社長なんですけれども、ある意味でなぜその文化財の修理をやっている会社の社長がこういう仕事をするのかというとね、それは全く異分野に見えてもそうではない。神社仏閣の場合ですと、みなさんご存知のように氏子・檀家さんと、主にお正月の初詣で出来上がっている業界です。そうすると結局人間の数が減ると、入れてもらう、投げてもらうお賽銭の単価が上がらない限りにおいては、毎年毎年これから減っていきます。氏子さん檀家さんも、もうすでに居なくなっていますので収入が減る一方なんです。私はそうすると小西美術工藝社という会社は、日本最大手の文化財の修理をする会社ですので、これだけは保証できます。どんなにお賽銭が減ったからといって、小西美術の見積もりは一円も安くならないんです。
そうするといなくなっていく日本人のそれによって収入が減ってるんですが、出費がほとんど減らない。その問題はどんどんどんどんギャップが生じていましたけれども、いなくなる日本人の代わりになんとかならないのかなということはありました。普通の経済学で考えると、要するに供給が過剰になってきていると。需要者がいなくなっているということなので、このギャップをどうやって埋めていくのか。考えられる方法はいくつかありますけれども、一つは神社仏閣の数自体を減らすということは、考えられないわけではない。もう一つは補助金を更に出すと、いうことは考えられます。神社仏閣を減らすということはなかなか現実性が無い。国の方では千二百兆円の借金を抱えながら今でも赤字になってまして、そうすると医療費と年金の負担がどんどんどんどん増えてきますので、文化財のためにお金を出すという事も現実的なものではない。じゃあ残っているのは何なのかというと、それは国内で使わなくなってしまった過剰供給の部分を輸出すればいいと。当然ながら、隣の東寺を海外に持っていくわけにはいかないので、逆に外国人に来てもらって支えてもらえばいいというのが元の発想です。
先日、新幹線のJR東海のとこで今の観光の仕事の関係でいろいろ意見交換をすることはあったんですけれども、つい最近まではあの中で新幹線フリーWi-Fiというものが存在していなかったんです。最近新幹線に乗った方は、今は20%の確率なんですけれども、フリーWi-Fiになっているのはだいたい全体の20%なんですけれども、今年いっぱいで東京大阪間の新幹線のほぼ全てがフリーWi-Fiが見えるような形になります。ずっと前からフリーWi-Fi入れてもらえませんかという事を言ってたんですけれども、新幹線は日本のビジネスマンのためのものであると。外国人観光客はどうでもいいということを、JR東海の人達に言われた。その時に、それはそうかも知れないけれども、あなたの会社は今日明日のことしか考えてなくて先見の明が無いと。日本のビジネスマンだってこれから42.5%減りますので、30年経ったところでほとんど絶滅危惧種みたいなものになっちゃいますので、今いいからといってどんどんどんどん問題になっていって、そうすると赤字になった時にいきなり国の方に補助金出せということ言ったらですね、それはお断りしますよということで、相当な喧嘩になっちゃいましたけれども、最終的にはそれで「そうか」ということで入れてもらうことになったんですけど、やっぱりいろんなところで、今よければいい、自分さえよければいいという、そういう考え方の人が結構多くいる中で、観光戦略というのはもっと大きい意味合いがあって、国全体を考えた場合には上の世代を支えていくための極めて有力な政策であるということはポイントのひとつなんです。

輸出大国を目指すべき日本
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