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経営研究活動

「新・観光立国として日本はどう変わるべきか」

「新・観光立国として日本はどう変わるべきか」

株式会社小西美術工藝社
代表取締役社長 デービッド・アトキンソン氏

 問題は、先程申し上げたように国は4千万人をある程度作ることは出来たとしても、8兆円の目標達成をするために誰が動くかというと、それは観光地が動かないと8兆円にはならないです。今のところではほぼ確実に2020年の4千万人の目標は実現されます。残念ながら、ほぼ確実に8兆円の収入目標は実現されません。たぶん6兆円になるかならないのか、そのところだなというように思います。なぜそうなってるのかというと言うまでも無く、それは観光地の方ではその目標を実現するための動きはしてもらっていないという事がポイントになってますので、これは私からすると非常にもったいない現象で大きな問題になっています。
 これはかなり古くなりましたけれども、5年前の時はこれは画期的だということを言われたんです。念のために頭の整理してもう一回申し上げますけれども、5年前の時に例えば日本政府観光局を中心に、日本が海外に対してどういう発信したのかというと、第一は文化と歴史でした。全体の海外発信の70%は文化と歴史でした。実は今日の午前中に京都市の観光の担当者の皆さんと、これからどうするのかという意見交換会をしてきましたけれども、いきなり京都市の方から「昔はゴールデンルートと京都、散々発信してもらったんだけども、あなたが顧問になってから日本政府観光局は京都の発信を全くしてくれない」という文句言われました。確かに昔は京都の発信というのはものすごい割合を占めていました。ただ、調べてみれば全世界の観光客の動向をみると、実際のどういう観光をしているのかという分析をすると、文化歴史はものすごい大事な要素でありながらも、言われるほどの誘致能力は無いということがわかりました。
 実際に皆さん京都にいらっしゃるということなので、なぜ京都はここまで人が来るのに奈良はあんなに人が少ないのかと考える価値はものすごく高いと思います。別にこれは問題発言のつもりで言っているわけではないんですけれども、文化財の専門会社から見ると、京都の文化財よりも奈良の文化財の方が魅力的なんです。なぜかというと、京都の文化財というのは江戸以降のものがほとんどなので、割とパターン化されているもので特徴的に非常にすばらしく出来ているという特徴があるんですけれども、例えば建造物で見ると平安時代の国宝重要文化財の建造物の京都府の軒数はたった1軒です。それは皆さんご存知、平等院です。それ以降のものは次第に増えてきますけれども、圧倒的に多いのはやはり江戸以降ですよね。ですから東京に対しては江戸以降だから面白くないというんですが京都も江戸以降ばっかりじゃないかというんですね。
 ご存知のように、奈良を見ると江戸時代になると誰も行かないところがかなり長くあって、応仁の乱以降は誰も行かないところであったので、奈良・平安時代の建物が非常に集中していてそれ以降のものってあんまり無い。あの時代ですとまだ確立されていないので、パターン化されていないのでものすごく面白い。仏像見ていても、多様性がものすごくあった時代の仏像がいっぱいあるんですけれども、江戸以降は仏像というのもほとんど企画商品みたいな感じになっちゃってますので、そこまでの面白さは無いです。
 ご存知のように奈良に行くと、白人の顔をしてる仏像もあったりとかですね、明らかに韓国人の顔ですよね。これ中国人の顔ですよねというのがいっぱいあるんです。その後の時代になると、江戸以降はほとんど日本人の顔に変わっちゃってるんですよね。そういう中で、文化財・文化ばっかりを考える人は多く奈良に行ってるはずなんです。30分しかかかりませんので。なぜ京都なのかというと、京都は多様性があるということなんです。
 かつては日本の観光目的の70%は文化・歴史だったんですけれども、海外の観光大学の教科書を読めば、基礎4条件といいますけれども自然・気候・文化・食事というこの4条件が出てきます。そこでポイントになってくるのがこの多様性なんですよね。温暖な国ではあるというのは日本の特徴の一つなんですけど、それと同時にもうひとつ特徴があります。寒くなる地域が無ければ、当然ながらスキーは出来ない。スキー客というのは、地球の観光客の中で3番目に多いのはスキー客なんです。ちなみに一番はビーチなんです。圧倒的に強い。そうすると寒くならない、雪が降らない国には当然ながらスキー客は来ませんので、タイを見ると一年中暑いという所なので、当然ながらそういうスキー客を呼ぶことはできません。その代わりに暑くならないとビーチリゾートもできない。ビーチリゾート見ると、とんでもない数を呼んでる国がいっぱいありまして、それだけで生きてる国がいっぱいあります。
 私が生まれたイギリスの場合は一年中暑くならない。ビーチリゾートは出来ない。北海ですので海も一年中極めて冷たい。ドイツを見れば3,400万人くらいしか来ないんですけど、隣のフランスは8,400万人くらい来ます。フランスではスキーができます。地中海に面している有名なビーチリゾートありますので、ビーチリゾートもできます。ドイツは食をみても、どこまでソーセージばかり食べるのかという問題があるんですけど、フランスに行けば食べるものがいっぱいあります。南の方に行くとまた全然文化が違うので、要するに面積が大きな国は有利なんです。
 そういうふうに考えると、じゃあ日本と同じようにとんでもない量の雪が降るスキーのリゾートがあると同時に、小笠原諸島であったり沖縄であったり亜熱帯のところもありまして、その間も全部あります。砂漠だけはないです。だけども、砂漠以外の気候というのが全部一つの国家の中にあるというのは、皆さんちょっと考えればそう条件が満たせる国はどこにあるかというと、まず欧州はほとんどない。例えばスイスみたいにスキーは出来るけれどもビーチは出来ない。エジプトやイスラエルであるとかああいうところは、ビーチはできるかもしれないけれどもスキーは出来ない。日本と同じように亜熱帯で雪いっぱい降る国というのは、一番分かりやすいのはニュージーランドなんです。それ以外の国はどこにあるかというと、あんまりピンとこないというか出てこない。それが日本の一つの特徴ではあります。
 食事はですね、海外に向けての日本の情報発信というのは和食を中心に、日本だから特徴を出さないと駄目だという固定概念がありまして、それで和食ばっかりいう傾向が強いんです。これも間違いですよね。日本人でさえ、統計を取ると和食を食べる回数は一日に一回だそうです。半分以下です、これ。なぜ、自分達がやらない行為を外国人に押し付けるのか。ということなので、日本の特徴というのは『和食』ではなく、『食事』と書いてありますので、やはり食がおいしい、多面的であるという事は非常に大事な話であって、この京都であっても、外国人が懐石ばかりに興味があるわけではないんです。
 今申し上げた通りなんですが、外国人が初めて日本に来た時に日本食食べるということは、一番高い点数が出てきますけど96%。リピートする時は、2回目以降は58%まで下がるんです。ですから1回目の時はそれは新鮮だから、どういうもんだろと言っていろんなもの食べますけれども、一周すれば「まぁ、あれはいいや」みたいな考え方になるわけなんで、好きなものだけはできてくるんですね。ですから皆さんご存知のように、人間って上手くできているもんで、自分の好みを知ってるわけではなくて、自分の知ってるものの中で好みを作っていくと。全く知らない人が来ると、何が好みなのかと分からないので、とりあえずひとまわり全部食べて行って、2回目の時は「あれは食べてみたんだけど二度と食べたくない」というものが当然出てきますから、だんだんだんだんこうやって削っていきます。ですから意外に外国人の中で和食の趣味というのは、強いんですけども2回目以降は減ってきます。
 ここに赤い文字で書いてあるのは、自然景勝地観光というのは、1回目の時にだいたい4番目くらい高い66.4%。2回目以降になると2番目に高い45.4%まで上がってきます。それに比べて文化はどうなっているのかというと、歴史伝統文化体験ということになりますと、1回目の時は24.4%、2回目の時に多少上がりまして25.7%になります。ただここにありますように、歴史文化というのは他のものに比べまして割りに少なくなっています。別になければいいという物ではないのですけれども、そればっかりを出しますと期待できる、来る層がやはり狭くなりますので、もう少し幅広く考える必要があります。
 ここの部分は観光地というのは意外に単純な業界でありまして、今朝京都市の皆さんといろいろ高度な話をしますけれども、高度な話の前に低次元の話をもう少ししっかりやってもらえませんかというのは正直な気持ちです。単純に考えれば誰でもわかることなんでけども、例えばイギリス人が京都まで来ると。イギリス人が日本に来るためには、だいたい飛行機代で30万円くらいかかります。来るには14時間ぐらいかかります。だいたい成田に入ります。成田からまた京都に来なきゃいけないので、これでまた3万円ぐらいかかりまして、2時間20分以上かかります。そうすると、そのぐらいの時間的、金銭的な投資をしています。それは日本人の観光客に比べて十何倍ぐらいの時間的、金銭的な投資をしているということをまず理解する必要があります。

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