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経営研究活動

「新・観光立国として日本はどう変わるべきか」

「新・観光立国として日本はどう変わるべきか」

株式会社小西美術工藝社
代表取締役社長 デービッド・アトキンソン氏

 いつも思いますけど、割とくだらないことでこの観光戦略が決まるということなんですけども、調べてもらったら、これは大事なポイントなんですけども、実際に来てる人達にどういうふうに変えた方がいいのかという事を調べてもらったんです。そうしたら、女性客の方から、砂利は歩き辛いというコメントありましたので、砂利を取っ払うわけにいきませんので、歩く道をたたきでちょっと高くして砂利の無い道を作りました。これもいろんなところで、京都は歩き辛いんだけれども二条城はすごく歩きやすいということで評判になっちゃって、それであれだけで人が来るのかと思いますけど、来るんです。
 そうするとやはりベビーカーで来る人は預ける場所が無い。じゃあ作りゃいいじゃないの。外国人だと荷物いっぱい持って来ますので、それだったら預かり所を作りましょうよと作りました。そうすると、行くとあれは御殿に入れないわけだから、ああいう大きい荷物で、それはもう入口の方で全部預かりますと。内部に入ってきますと、丁寧に丁寧に一つ一つの部屋に、もともとどういうために使った部屋なのか、歴史的事件あればどういう歴史的背景があるのか。なおかつ例えばそこに牡丹があるなら、なぜ牡丹を描くのかとかですね。当然ながら日本文化ですから、意味があって描いてるわけですから、ただ単に適当に牡丹描いといてとは誰も注文してませんので、意味があって描いてますので、意味を全部説明をしています。
 もうひとつ、自然を足すということをご説明をしたかったんですけども、最初は夏の間だけ朝粥御膳を始めたんです。2年前。いうまでもなく京都は夏暑いんですけども、午前中、朝一番というのは割と快適ですので、その時間を使って朝粥御膳を作って、そこの日本庭園の所のまん前にある建物で食べる、そういうコースを作ってやってもらったんですけど、聞くとですね、電線も何ひとつも無い、余計なもの近代的なもの何ひとつも見えない、大自然の中で純和風というか日本的な空間の中で、朝ゆっくり2時間ぐらい過ごすというのはものすごい価値を感じる人が多いんです。御殿はあんまり興味がないんだけども、ただそこに来てせっかく来たんだから、押し付け販売ではあるんですけども、くっついてくる御殿の拝観券もありますので、じゃあ観に行きますかという事で層が広がっていくという事が良かったと思います。
 今までですと北村所長も、ライトアップだとか紅葉だとかいろんなこと考えていらっしゃいますので、そういうことやると発信はそんなにしてませんけれども、やはり魅力あるイベントやる時にそれは間接的な発信になりますので、口コミでどんどんどんどん回っていきます。朝粥御膳も最初は大丈夫かなぁと思ったんですけど、販売した途端にほとんど即完売。広げても完売。去年は2ヶ月だったんですけど今年は3ヶ月にしまして、即完売。引き上げても、2,500円を3,000円にして、それでも即完売という事です。御殿の600円ぶーぶーぶつぶつ言うんだけども、ただの朝粥で3,000円払うんだということです。あれはもうぼろ儲けです。原価安いと思います。そういうように、話題性がありますし、食というのは人間の基礎的なもののひとつでありますと同時に、いろんな層を呼ぶことができるということなので、そういう発想の転換で、やっぱり多様性で非常に得することは多いんです。
 今、なぜ8兆円にいかないのかということを考えると、いくつか問題あるんですけど、一番大きいのは観光イコール発信だという考え方が非常に強くて、カスタマーエクスペリエンスをおろそかにしているということが、今現在の日本の観光戦略の最大の問題であると私は考えています。
 いろんなところを見ると、言うまでもないのですが一番下のところですね、たった七文字なんですけれども、「価値と付加価値」の違いが分かっていない。価値と付加価値は何なのかと言うと、先ほど申し上げた価値に付加価値を加えるという事が設備投資なんです。今の二条城の例でもありますように、二条城というのは国宝・世界遺産としては、存在価値はあります。ただ、あの設備投資をするまでは、存在価値があったとしても付加価値はなかったんです。そうすると、今現在の600円というのは何の600円なのかというと、存在価値に対する600円。なぜ1,000円ではないのか、付加価値が無いから600円。これは悪循環なんですね。600円だから設備投資が出来ない。設備投資をしないから600円しかできない。実際に人が行ったら、大した事なかったけれどもキンキラキンだったということで、まあまあ600円だったらまあいいやみたいな、そういう考え方で悪循環にずっと入っていました。
 なぜ、昔はそういう考え方にならなかったか理由は簡単で、日本は戦争が終わったら爆発的に人口が増えてる時代が90年まで続いてました。あの時代では600円だろうが何だろうが、人口の原理で動いている国ですから、非常に悪く言えば実際に来れば付加価値が無いから満足度は大したことない。ある意味で人を騙していると。皆さんもそういう経験あると思います。私は散々あります。どこそこですね、秋田の方にある有名なところで、城下町がほぼ完全に残っていると、ものすごい綺麗な写真があってですね、武家屋敷の道が残ってますと。実際に行ったらその通り。武家屋敷の道が残ってるだけで、武家屋敷が残ってないんです。武家屋敷は2軒しかなかったということで、騙されたなーと思いましたけれど、そういう経験が非常に多いんですね。実際に聞くと、今までは旅行会社・交通機関の考え方で動いた日本の観光戦略。それは「そうだ、京都行こう」というのは典型的な象徴的なもんです。「そうだ、京都行こう」というのは、「そうだ、JR東海に乗ろう」と。京都に行ったらお金を落とすなというふうになってます。あれで3万円を儲けてますけど、京都には5千円ぐらいにしかならないです。これは不本意的なものです。
 ただ昔は、600円の時は人は増えてるんだから、安くても毎年毎年収入が増えるんです。今人口が減ってます。何々離れと言いますけど、離れてないです。居ない。国内観光客は。これ以上どんどんどんどん減ってきますので、そういう意味では私は厳しく言わしていただきますと、京都で観光公害だと、確かに上手くやってない所はあると思います。ただ今現在で、今はそういうこと言っていいのかもしれませんけれども、20年後30年40年後の事を考えると、観光公害どころか外国人を迎え入れないということになりますと、この街は40年後誰もいないゴーストタウンみたいなものになってしまうことは、もう目に見えてます。
 ですから、観光公害という事を考えると、これは定義されてますけれども、観光公害とはどういう事かといいますと、来てる人の地元に対する負担を上回る対価をもらってないということが観光公害なんです。多い少ないでは言わないです。そもそも京都に来ている外国人の数は、観光公害という範囲の中には入りません。ベネチアに来ている外国人観光客、6万5千人しかいない街で2千2百万人が来ます。それは観光公害です。この街では2千2百万人なんて来ていせん、外国人としては。まったくそういうような規模にはなっていないです。そもそも6万5千人をはるかに超えてるということもありますので、観光公害にはなっていない。ただ、唯一観光公害といえるのは、十分の単価が落ちてないということは言えます。今日の話のとおりなんですけども、それは誰が悪いのかというのは、それは別に外国人が悪いわけではない。京都は十分な対価・単価をもらうための設備投資をしてないから観光公害に見えるだけなんです。
 こないだ奄美大島に行ってきたら、一番高いホテルがやっとこせでましなところが出てきたんですけど、最近まで一番高いところで7千円なんです。海外から来て30万かけて14時間かけて7千円ですと言われて、あんなにいっぱいお金を持ってきたのに7千円といわれても、それでおまけに2食が付いてますので。そういうことは外国人は全く期待していません。そういう意味で高ければ高いほどいいと。そういう意味では4月から京都二条城では千円になりますので。桂離宮もゼロだったのが千円になりましたので、誰も文句言わないです。
 そうすると、桂離宮もあのぐらいの外国人が来てると日本人も来てましたけれども、やっぱりゼロでやってると、交付金で全部支えてると猛烈な赤字。そうすると十分なメンテナンスができない。千円を取ったからといって減るかと言えば、人は減りません。ほとんどみんなタクシーで行ってますんで、タクシー代の方がはるかに高い。実際に行って、千円でもらって、そうするとその千円のほとんど全部が、桂離宮の建物とお庭の手入れに使えますんで、それは当然ながらカスタマーエクスペリエンスとして良くなりますし、それで庭師もみんな儲かりますし、それで日本文化守ることにも繋がってきますんで、やはり経済が循環してきます。私としては千円より高くしてもらいたかったんですけれども、最初は数百円の話でしたので、千円にもっていくだけで結構たいへんだったんですけれども。こないだ東京の赤坂迎賓館が二千円に引き上げになりましたので、二千円に引き上げても、人が減るどころか増えるんですよね。不思議な現象で。ですから多言語対応、食事を提供する、アクティビティをするとかいろんなことをすることによって、設備投資をすれば、来る方もこれはちゃんとやってますね、お金取られてもしょうがないよねっていうことで循環していきます。地元にお金が落ちますというところがポイントになります。そういう意味では、大原に人が行かないという話は、京都市からいろいろ話があったんですけども、確かに行かない。「なぜ行かないのか」と言うと「行ってほしい」と。「行ってほしい、というのはあなたの勝手な思いでわかるんですけども、行ってもらうための設備投資はちゃんとやってますか。インフラ整備はしてありますか」と言うと、「まだ出来てない」と。何も出来ていないところに人を呼ぶというのは、やはり本末転倒なんで。まず人を呼ぶための設備投資をしましょうよということになります。

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