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経営研究活動

講演会

名 称 「グローバル化時代の物づくり 中小企業はいかに勝ち残るか」
実施日
2013年2月16日
講演テーマ/
講演者
「中小企業の物づくり グローバル化時代にどう勝ち残るか
~チャイナ プラス ワンは日本だ!~

政策研究大学院大学 特任教授 橋本久義 氏
講演会概要 日本の中小企業の底力の最たるものは、世界中の “複雑・高級・精密・面倒” な需要を引き受けてきたことにある。そして、不況時には、“節約する” “掃除を徹底し勉強する” “研究開発に勤しむ” “新分野に挑戦する” “サービスを充実する” を実践して、大きな力を発揮してきた。
世界の工場とも言われる中国台頭の中で、日本の中小企業は、お家芸ともいえるこのような特徴を生かせば、これからのグローバル化時代の中で勝ち残ることができると、3,400以上の工場を見てきた橋本教授は断言している。
豊富な具体事例を通して、中小企業が勝ち抜くための方策と考え方を、明快に語る。
講演要旨

 中小企業の社長には、人徳や魅力にあふれた人が多い。というのも、そうでないと中小企業には従業員が定着しない、金融機関が金を貸さない、親会社は注文を出さない、ということになるからだ。そういった中小企業の社長たちの人徳に魅せられ、通産省官僚時代以来、27年間に訪ね歩いた工場は3,479。金をかけずに工夫したりしている町工場の事例を見て回るのが楽しくて、今日もやめられない。

 中国は物づくりにおいてブラックホールとなって、世界中の製造業を吸い込んでいる。たとえば高速道路。中国はいま、猛烈なスピードで建設を進めている。総延長距離が約11万キロで世界一のアメリカは、これだけの距離を80年かけて建設してきたのに対して、世界2位の中国はわずか十数年で10万キロ近くつくってしまった。ちなみに日本は50年かけて1万キロに満たない。

 中国は発電所、鉄道、通信インフラも次々に整えている。労働者の質も高いし、何でも調達できる。法律もきわめてフレキシブルになっている。そもそも土地が全て国有だから、世界中の企業が中国に投資すると、必ず国にお金が入る。その財源で、どんどん建設をしていくのだ。ベトナムやインドネシアやインドが中国にとって代わることはむずかしいだろう。たとえ日中関係や中国国内に問題があっても、工場をつくらざるをえないのが現実なのである。

 ところが、かりに高級な機械や精密な機械が中国に導入されても、それらの機械をつくるのに必要な塗装、メッキ、鋳物、鍛造、プレス、金型、板金、熱処理、機械加工、溶接、研磨、ダイカスト、プラスチック成形、粉末冶金等々の技術の需要は日本に集まってくるに違いない。世界中の複雑で高級で精密で面倒くさいものを扱う技術が、日本の中小企業には残っている。効率追求型の欧米企業では対応できなくなってきているし、アジアではまだその実力がない。

 日本は、もともと何の技術も持っていない人が、ものすごく立派な職人になれる国。製造工程で問題が起ったら、修理を自分たちでやってしまう。「修理の腕が上がった」と、みんなで喜び合い励まし合うような国は世界中どこにもない。「金型のことなら任しといてください。俺以上の腕を持ってるやつはこの辺にはいませんぜ」「塗装だったらどんな塗装面だって、うちに持ってくりゃピシッと仕上げてみせますぜ」という人たちがいる。頼む側が「だいたいこんな感じなんだけどさ」と言えば、期日までにいいものが出来上がってくるのが日本である。発展途上国では期待しにくい。

 それぞれの人たちがそれぞれの分野できちんと責任を果たして、お客さんに喜んでもらうために不良率を下げるなどの努力しているのが日本の物づくりの職場である。世界の製造業が中国に吸収されることがあっても、日本の中小企業の技術は「チャイナ プラス ワン」として勝ち残ることができるのである。

※肩書は当時のものを掲載しています。

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